成熟の帰郷
田舎の静かな村。山あいに佇む古い家へ、紗希は高校卒業以来、久しぶりに戻ってきた。都内の大学を終え、社会人として歩き始めてから初めての帰省だった。フロントガラスの向こうで、田畑の輪郭がゆっくりと流れていく。ハンドルを握る指の影に、ブラウス越しの胸元のふくらみが映り込み、視線が一瞬だけそこに留まる。
身体は、もう昔のままではない。白いブラウスの生地は、若さを残した張りのある乳房を隠しきれず、呼吸に合わせてわずかに持ち上がる。ウエストは自然にくびれ、スカートの内側では、弾力を宿した尻が座面に沿って形を変える。太腿から膝へ、足首へと続く線は、意識せずとも視線を誘うほど、すらりと伸びていた。服を着ているのに、輪郭だけで、その奥の裸身を想像できてしまう——そんな身体になっていることを、紗希自身がいちばんよく知っている。
コロナ禍を経た日々は、時間の使い方も、夜の過ごし方も変えた。誰にも見られない部屋の静けさの中で、指先を滑らせ、息を確かめ、快楽の波を受け止めることを、彼女はもう迷わず受け入れている。オナニーの楽しみを覚え、身体が確かに女として応えてくることを知った。その経験が、内側に小さな自信と、消えない疼きを残していた。
(だから……帰ってきた)
誰にも言えない理由が、胸の奥で脈打つ。幼い頃から続いていた、祖父・重信との“秘密の身体測定”。成長の節目ごとに、背丈や体重を確かめるという名目で触れられていた、あの時間。子どもの頃はただの習慣だったはずのそれが、今では別の意味を帯びて思い出される。すっかり大人の身体になった今、あの手が、どんな反応を見せるのか——その想像が、帰省の動機として、密かに彼女を突き動かしていた。
家に到着すると、玄関先には両親と祖父母が揃って待っていた。車を降りると、夜の空気が肌に触れる。その冷たさが、かえって身体の線を意識させる。
母が微笑み、声をかける。
「おかえり、紗希。元気にしてた?」
「ただいま、お母さん」
答えながら、紗希は無意識に背筋を伸ばした。祖母の視線が、胸元から脚先へと一瞬滑り、すぐに笑顔へ戻る。父は短く頷くだけだった。
少し遅れて、重信が前に出る。皺の刻まれた目が、孫娘の全身を静かに捉えた。その視線に、心臓が一拍、早まる。
「紗希、お帰り。……大きくなったな」
その一言が、身体の奥に沈んでいく。庭の風景は変わらないのに、自分だけが確実に変わっている。その事実が、縁側の夜へと、静かに続いていく予感を孕んでいた。
(測ってもらいたい……今の、私を)
胸の内でつぶやいた願いは、誰の耳にも届かないまま、帰郷の夜気に溶けていった。